浅草山麓の森林開発の歩みについて

元 林野庁中越森林管理署森林官
大島 一男

 

県立の自然観察施設である浅草山麓エコミュージアムは湿地やブナ林を有し、標高750メートルの高地にある。園内からは浅草岳・守門黒姫を望み、清冽な谷地(ヤチ)沢が原始の姿そのままに曲がりくねって流れている。気象条件は浅草岳の麓であることから特に冬の季節風が強く、寒さも厳しい豪雪地帯である。地元の人たちはこの地(現在のエコミュージアム園内)を(湿地のある平坦地形の意を込めて)「谷地(ヤチ)の平」と呼び、狩猟や魚釣り、キノコや山菜採りの場所として利用してきた。

 

昭和15年ころまでは「人の手のまったく入らない森(原生林)」であり、ブナ・トチノキ・ホウノキ・サワグルミ・ヤチダモなどが育っていた。中でもブナはこの森林の9割程を占めており、「胸高直径※1」が70cm、「樹高」が20メートル以上の巨木が「1ヘクタール(100m×100m)の面積あたりで約150本」もあり、森の中に足を踏み入れると「昼間でも薄暗い感じ」の素晴らしい森であった。

 

昭和16年頃からはこうした森への伐採も本格的に始まった。特にブナは材質が良かったので、戦時経済下という事もあり軍用飛行機のプロペラや剣銃の銃床、また戦後はピアノの鍵盤などにも加工された。大量伐採により生産したブナ材であるが、これらの他にも製紙用のパルプや燃料としての薪、木炭材としても利用された。エコミュージアムの周辺ではこれらの時代の名残として「木炭生産のための炭窯の跡」を今でも見ることができる。

 

またブナの原生林の伐採の後、現地に残された「伐根」や「幹」などにはたくさんの天然ナメコ、キクラゲ(ハナビラニカワタケ)などのキノコが出て来て、食用として大いに利用された。

 

このように私たちは暮らしの中でブナの森を利用して来た。浅草山麓のブナの原生林は森林開発により大きく姿を変えたが、樹木は再生可能な資源であり、森を構成する大切な存在である。私たちはこのことに気づき、これからも大切な森林を育み、利用しながら、「山」を守り、森の鳥獣や昆虫などと共に暮らしてゆける「緑豊かな森づくり」に役立ててゆきたいものである。

 

※1「胸高直径」
樹木の大きさを示す林業用語。大人の胸の高さ(地面から1.2〜1.3m)における樹木の太さ(直径)を計測する。