今日(2021.03.24)は朝から快晴となり放射冷却現象も予想通りでしたので、出勤前に里山エリア(エコミュージアム園内ではありません)の定点観察を実施しました。その結果、冬眠明けのツキノワグマの足跡は発見できなかったものの、昨晩から今朝にかけて活動していたニホンイノシシの新しい足跡を確認しました。
<左上:晴天の朝に映える越後駒ヶ岳と権現堂山 右上:雪消えでイノシシのエサ場は広範囲に分散>
<左下:県道から100m以内にイノシシの足跡あり 右下:昨晩から今朝に形成されたイノシシの足跡>
<左:今冬発見した樹洞のあるシロヤナギ 右上:シロヤナギの樹洞の大きさはクマの冬眠に十分>
春分の日を過ぎて夜明けの時刻がどんどん早くなっています。このため、出勤前の定点観察も可能となりました。今朝は放射冷却現象により積雪面が硬く凍結しており、当地(新潟県魚沼地方)で言うところの「凍み渡り(しみわたり)」で雪原を歩くことができます。
出発してすぐにニホンイノシシの新しい足跡を発見しました。このイノシシは通勤の自動車が行き交う県道からわずか100mほどの里山(旧薪炭林)にある砂防(治山)ダムの周囲を歩いています。おそらく餌資源となるフジやクズの根塊を探索しているのでしょう。新潟県魚沼地方ではイノシシもクマも「集落のすぐ近くに生息し、活動しています」。
以前のブログでも言及しましたが、当方の調査目的は「里山のツキノワグマ」の生息実態を解明することですが、脇役の存在であったはずの「ニホンイノシシがこの里山(旧薪炭林)で個体数を激増させていること」が、結果として「ツキノワグマの奥山エサ不足説を否定していること」に気がつきます。新潟県魚沼地方ではそもそもニホンイノシシは極めて稀な動物でした。それがここ数年「里山エリアでイノシシが激増」しています。豪雪地を好まないイノシシは奥山(ブナ林帯が広がる多雪冷涼地)を本来の生息地としないため、イノシシの激増を奥山の餌資源で説明することはなかなか困難です。むしろ「イノシシの激増」も「ツキノワグマの人里への出没」も、「戦後の燃料転換により里山(旧薪炭林)や耕作放棄地などで蓄積を続けるバイオマス(生物由来資源)と餌資源で理解すること」がより自然です。
更にこの調査区について言えば「奥山である守門岳北面や守門黒姫エリアのブナ原生林が大切に保護されている事」が、「クマの奥山エサ不足説の否定」を更に強化する結果となっています。別の表現を用いれば、「原生林や自然林として奥山がきちんと保全されているのに(マスティングのサイクルとは別に)里山や人里にクマやイノシシが毎年頻繁に出没しているとすれば、その主要因は奥山には無い※」とも言えます。
※堅果類の豊凶調整効果である「マスティング」の影響については別項目を御参照下さい。
フィールド調査は発見の連続です。4月中旬にはツキノワグマの冬眠明けとなります。新潟県魚沼地方では、冬眠明けのツキノワグマが「真っ白なタムシバの花」や「ブナの新芽」を喜んで摂食する様子が目に浮かびます。当方では4月以降も奥山の調査を予定しています。
ネット上では「奥山のエサ不足でツキノワグマは飢餓状態」「奥山の荒廃でツキノワグマは絶滅の危機」との言説も一部ではあるようですが、4月以降のフィールドでの観察結果や各地からの報告のひとつひとつが、これらの言説の真偽を証明することでしょう。イノシシは人間の言葉を話しませんが、里山エリアで激増するニホンイノシシの足跡は「クマの奥山エサ不足説を否定している」ように思えます。