昨日(2021.02.20)は寒波が抜けた直後の快晴の土曜日ということで、休日の朝活スキーを兼ねて、ツキノワグマの基盤生息域である守門山系の藤平山(ふじびろやま)エリアの調査を実施しました。
<左上:芋鞘神社で安全祈願、鳥居も埋まる豪雪 右上:奥山調査にはテレマークスキーが最適>
<左下:三角錐のピークに動物のラッセル跡あり 右下:このラッセル跡はイノシシかな?カモシカかな?>
<左上:雪原にはトウホクノウサギの足跡が沢山 右上:奥山にあるヒヅメの足跡と言えば・・>
<左下:写真の中央にはある動物が・・ 右下:ニホンカモシカとの嬉しい出会い>
今回の寒波は新潟県魚沼地方にも大雪をもたらし、守門西名(すもんにしみょう)のアメダス観測点における最高積雪深は320cmを超えました。今回の調査地点である守門山系藤平山ではおそらく500cmを超えているでしょう。それでも今回撮影した写真にある通り、トウホクノウサギやニホンカモシカなどは豪雪環境の中でも逞しく命を繋いでいます。
ネット上の言説では、「人間が奥山をめちゃくちゃにした」「山から野生動物が姿を消した」「山の木の実は全滅」「生き物の気配はゼロ」といった極端なものもありますが、実際にフィールドで調査してみると、新潟県魚沼地域について言えば「奥山の自然環境はしっかりと保全されており」「豪雪環境の中でも様々な野生動物が逞しく生息している」ことが分かります。「論より証拠」であり「百聞は一見に如かず」です。朝活のテレマークスキーによる調査でも、ファクト(事実)に基づく「フィールドと野生生物に関する知見」が日々蓄積されます。
そして今回は嬉しいことに、久しぶりにニホンカモシカと出逢うことが出来ました。さすが豪雪環境に適応したニホンカモシカです。このニホンカモシカは「モコモコした暖かそうな毛皮」を纏っています。当方はクライミングスキンとツアービンディングを装着したテレマークスキーを使用していますが、豪雪環境にあってもニホンカモシカは素晴らしいスピードで奥山のブナ林を駆け抜けて行きます。斜面を上るカモシカのスピードに、当方のテレマークスキーの登坂速度ではとても付いて行けません(このためカモシカの写真は数枚しか撮影できませんでした)。
カモシカと出逢う機会は、新潟県魚沼地方においてもここ10年ほどは徐々に少なくなっている印象があります。ニホンカモシカは国指定の特別天然記念物であり、狩猟の対象鳥獣ではありません。地域によっては、ニホンカモシカの個体数が減少傾向にあるとすれば、研究者の皆さんが指摘する通り「エサ場をめぐるニホンジカやイノシシとの競合」が背景にあるのかも知れません。またツキノワグマの個体数推移との関係にも注目したいと思います。
<2021.02.21追記>
NHKラジオR1の「石丸謙二郎の山カフェ」で丁度「山でひょっこりニホンカモシカ」を放送していました。NHKの「聞き逃しサービス」で1週間(2/27まで)聴取可能です。ニホンカモシカの生態や、登山でのカモシカとの出会いのエピソードなど非常に参考になります。
<左上:奥山エリアのブナ林と雪崩シュート 右上:45度ほどの急斜面と雪庇(せっぴ)>
<左下:雪庇(せっぴ)の下には雪崩のクラックあり。トウホクノウサギはこうしたクラックも軽々と飛び越えてゆきます。
右下:ニホンカモシカのラッセル跡とスキー跡>
そして、ツキノワグマの基盤生息域である守門山系の奥山エリアを訪ねてみると、ブナの自然林(低標高の場所はブナの二次林もあり)が広がっているのは「風雪の影響が軽微な概ね標高1,000m前後の尾根筋と沢沿い」であることが分かります。またブナが卓越する峰々の間には急斜面の「雪崩シュート(走路)」が存在しています。山スキーヤーやボーダーの皆さんには垂涎の斜面もありますが、積雪が不安定な場合は雪崩が発生する場合があり、不用意な立ち入りは大変危険です。
その一方で、ツキノワグマの生態から見ると、こうしたブナ林に挟まれた急斜面の「雪崩シュート」は「雪消後はアザミやシシウドなどが群生する格好のクマのエサ場」となります。また不幸にもニホンカモシカが雪崩により埋没死した場合、こうしたニホンカモシカの死体をツキノワグマはエサ資源として活用しますので、「雪崩は植生に多様性をもたらし、豪雪環境にある生態系を駆動する大きな役割を有している」とも言えます。
<左上:この樹木はヤマナラシかな? 右上:藤平山の山麓で奥山エリアと里山エリアとが接しています>
<左下:トウホクノウサギの丸いフン 右下:雪面に残された羽搏きの跡はヤマドリ??>
朝活スキーによる自然観察では新雪の上に沢山の発見があります。「自然観察では、早朝は夜の延長」は学生時代の恩師の言葉ですが、新潟県魚沼地方では豪雪環境の中にあっても様々な生物がその生態を見せてくれます。そして「新雪の表面は野生動物の行動を写す印画紙」です。越後の豪雪環境に生きる野生動物を引き続き調査してゆきます。