里山のツキノワグマ 75 〜裏山はクマの爪跡だらけ 重複するクマとイノシシの行動圏〜

 今日(2021.02.06)は大雪も一段落した土曜日という事で、テレマークスキーを用いた積雪期の定点観察を実施しました。

<左上:2mを超える積雪の中を、JR只見線のディーゼル機関車が進んでゆきます>

<右上:積雪期のフィールド調査にはテレマークスキーが最適です>

<左下:杉林のすぐ横にも昨年秋に形成されたクマ棚がありました>

<右下:そのクマ棚を真下から撮影>

 

<左上:ホウノキに残されているツキノワグマの爪跡>

<右上:このクマの爪跡は10年以上経過しているかも知れません>

<左下:比較的新しい(3年前後か)ツキノワグマの爪跡>

<右下:これも比較的新しいツキノワグマの爪跡です>

 

 久しぶりの雪上調査でしたが、行く先々で数年分のツキノワグマの爪跡や、ツキノワグマがコナラのドングリを採食する際に形成した昨年秋のクマ棚などが「集落のすぐ近くの里山(旧薪炭林・裏山)で」多数発見されました。ツキノワグマが残す爪跡やクマ棚などを「フィールドサイン(生態痕跡)」と言いますが、これらのフィールドサインや現在までの調査結果から考察すると、この定点調査エリア(旧薪炭林)で行動しているツキノワグマは「複数頭」の可能性が高く、またその利用期間も「複数年(10年以上)に及ぶ)」と思われます

 ネット上の言説では「奥山が荒廃したからクマが人里に出没する」「人間がクマの住処を奪った」「山の木の実は全滅」「ツキノワグマは飢餓状態」と言われることもあるようですが、今冬の積雪期調査や昨年に実施したクマのフンの内容物調査などから判断すると、新潟県魚沼地域については「里山(旧薪炭林)の樹木の成長により、里山がクマの新たなエサ場(新天地)となり、クマの生息域が拡大し、クマの個体数も増加傾向にある」と思われます論より証拠、野生動物のフィールドサインは寡黙にして雄弁です身近な里山には様々な野生動物が生息しています

 

<左上:雪崩法面に露出した地面に続くイノシシの足跡>

<右上:赤土の泥足(ベトアシ)が明瞭なイノシシの足跡>

<左下:イノシシの採食場所となっている雪崩法面>

<右下:イノシシの泥足(ベトアシ)は近くの杉林へと続いています(通い道)>

 

 そして今回の積雪期調査では「豪雪環境下におけるニホンイノシシの採食行動」を示す貴重なフィールドサインを発見しました。このイノシシは「急斜面の雪崩により露出した地表部」にある植物の根や、地下茎を採食しているようです。またこの足跡が示す通り、新潟県魚沼地方の豪雪環境においては「ニホンイノシシは里山付近の杉林をシェルター(一時滞在場所)としている」ようです

 当地の現在の積雪深は231cm(2021.02.06)であり、根雪解消日が4月中旬前後になるとすれば、このニホンイノシシはあと2ケ月以上こうした豪雪環境に置かれることとなります。4月中旬となれば、里山と奥山のツキノワグマも冬眠(冬篭り)明けとなります。そのときにニホンイノシシが豪雪環境に耐えられず斃死(※)している可能性もありますが、様々なフィールドサインが示す通り、この調査エリアにおいては「ツキノワグマとニホンイノシシの行動圏が重複している事」が分かります

 

※豪雪環境下で斃死したイノシシの死体は新鮮なまま(氷温の)雪中に埋没し、雪消えとともに雪上に露出することで、このエリアに生息するツキノワグマの残雪期(冬眠明け)のエサ資源にもなり得ます。つまり、豪雪により里山で斃死するイノシシが増加すれば、その分だけ里山で行動するツキノワグマのエサ資源も増加することになります。仮にこの機序が機能した場合、「春先から里山でのツキノワグマの出没が相次ぐ事態」も想定されますので、イノシシの斃死体を里山で発見した場合は「一般の方は決して近づかないよう」お願いいたします。

 

<2021.02.07追記>

 2021.02.07の午前中に実施した雪上観察でも、芋鞘集落上手の藤平山へ至る林道入口(標高424m、積雪深約3m)でニホンイノシシの新しい足跡を発見しました。また周囲には集落に通うホンドギツネの足跡(通い道)も確認されています。今冬は大栃山集落や大白川集落でも雪上にニホンイノシシの足跡が見つかっています。イノシシと不意に遭遇した際に人身被害が発生する可能性もありますので、人家周辺での食品残渣や生ゴミの管理に十分御注意下さい

 

<左上:当方の接近により迷走するイノシシのラッセル跡(当日形成された新しい足跡)>

<右上:イノシシのラッセル跡と、当方のスキーのシュプール(時間差と警戒により安全確保済み)>

<左下:守門山麓には広大な旧薪炭林が広がる。遠くの「真っ白な」奥山は守門袴岳(1537m)>

<右下:県境に位置する奥山である「真っ白な」北岳(1472m)と鬼が面山(1465m)>

 ※各写真はクリック操作で拡大表示されます

 

 当エリアの奥山である守門岳や浅草岳も、越後三山只見国定公園や県立自然公園として大切に保護されています。そしてこれらの山々には今でもブナの自然林がしっかりと残されています。一方で、こうした奥山の手前にある広大な里山(旧薪炭林)は戦後の燃料転換によりほとんど伐採されなくなったことから、里山ではコナラやオニグルミなどの樹木がどんどん成長し、ツキノワグマの新たなエサ場となっています。新潟県魚沼地方について言えば、「人里へのツキノワグマの出没は、里山の利用形態の変遷を理解することが大変重要」です

 ツキノワグマは森林性の大型哺乳動物ですから、里山の森林がどんどん成長して魅力的なエサ場となれば、(一連の調査結果が示す通り)ツキノワグマが里山を頻繁に利用するようになるのは必然とも言えます