新年明けましておめでとうございます。新型コロナ感染症への対応で、医療関係の方をはじめ、保健所や福祉関係の方など、正月休み返上でそれぞれの担当分野で取り組んでおられる事と存じます。新年が皆様にとって安寧な日々となりますよう祈念すると共に、当方も微力ではありますが、新たな気持ちで自然教育と環境学習、博物館業務に精進したいと思います。
さて、そんな新年の幕開けですが、本日(2022.01.02)も終日氷点下となった真冬日ではあるものの、午後から天候も回復したため「里山のツキノワグマの生態解明」の一環として、「里山におけるツキノワグマの冬眠穴調査」を実施しました。
<最寄りの集落から1kmほどの距離にあるオニグルミとコナラの森(群落)を調査しています>
<豪雪地帯である新潟県魚沼地方での雪上調査には、山野を登って滑られるテレマークスキーが最適です>
<昨年秋に連日ツキノワグマのフンが確認された里山(旧薪炭林)を、冬期の今あらためて調査します>
<ツキノワグマが冬眠態勢に入り、やっと安全な条件でフィールド調査が実施できます>
<柴栗(野生のクリの木)には2020年のものを含め、数年分のツキノワグマの爪痕が残されています>
<ツキノワグマはクリの実を採食するために枝を樹上で手折り、熊棚を形成します>
ネット上の言説には「2020年は山の木の実は全滅」とか「山に動物の気配は一切無し」、「ツキノワグマは飢餓状態」といった極端な見解も散見されますが、こうして新潟県魚沼地方の里山(旧薪炭林)をじっくり調査すると、当地では柴栗が平年並みに結実し、これをツキノワグマが確実に採食していた事が、今回の調査でも実証されました。そしてこのクリの木に残されたツキノワグマの爪跡が示す通り、ツキノワグマは「自分のエサ場の構成を良く把握しており」、複数年に渡って採食利用していることが推察されます。
確かに2020年は「新潟県魚沼地方においても奥山の堅果類(ブナの実やミズナラなどのドングリ)は凶作傾向」でした。こうした堅果類の凶作・並作・豊作の変動サイクルは森林生態学の分野では「マスティング」と呼ばれ、「凶作年の設定により堅果類を採食する野ネズミや昆虫などを増やさず」、また「豊作年の設定により、野ネズミなどが食べきれない程の量の堅果を供給することで、本来の種子散布の効果を最大化させる植物の戦略」として理解されます。
2020年の調査では、当地のツキノワグマは里山(旧薪炭林)の柴栗やオニグルミ、ミツバアケビ、更にはイラクサやこれを食草とするフクラスズメ(蛾)の幼虫まで採食していました。そして連日発見されたツキノワグマのフンは本当に見事で立派でした。
ミズナラやブナのマスティングは「植物が主役の自然の仕組み」ですが、ツキノワグマは当然「このマスティングに対応した採食戦略」を取ります。そのひとつが「凶作年における採食のための行動圏の拡大(奥山と里山とを行き来)」であり、「里山という(多様なエサ資源を有する)新しいエサ場の利用」です。2020年はこうした「里山におけるツキノワグマの生態」を追ってきましたが、調査すればするほど「ツキノワグマは柔軟な適応力を有する、逞しい野生動物である」との認識に至ります。
<2020年、新潟県魚沼地方のツキノワグマは、里山と河畔林でオニグルミの実を積極的に採食しました>
<また2020年の9月には、当地のツキノワグマはフクラスズメ(蛾)の幼虫も採食していました>
<積雪が2mを超えても、昨年秋に形成されたツキノワグマによるコナラへの熊棚は観察可能です>
<クマはドングリが樹上に実っている状態で枝を手折るため、コナラの葉は落葉せず樹上に残ります>
<豪雪地帯に生きる野生動物にとって、杉林は重要なシェルター(休息・荒天退避場所)です>
<ニホンカモシカやトウホクノウサギなども杉林を冬期のシェルターとして利用します>
<またこうしたトウホクノウサギなどを追って、テンやホンドギツネも杉林周辺を狩場としています>
<大木の洞(ウロ)が少ない里山(旧薪炭林)ですが、フィールドをじっくり観察するとクマの冬眠穴の候補もありそうです>
日本の森林と野生動物を語る時に、一般的には過去の有名なアニメ作品の影響もあってか「里山の照葉樹林」や「広葉樹林」などを積極的に評価する側面もありますが、豪雪地帯においては「冬期であっても葉を茂らせた里山の杉林」や「奥山の針葉樹林」も、野生動物の生態において大切な役割(シェルターや狩場など)を有しています。今日もアカネズミやテンの足跡を雪上で確認しました。毎日氷点下の日が続いていますが、ツキノワグマをはじめ、森の動物達は逞しく命を繋いでいることでしょう。