新潟県魚沼地方の「50年以上に及ぶ旧薪炭林の成長」と「里山のツキノワグマ」の出現については、このシリースの中で何回も触れてきました。昨年(令和元年)10月に発生した「魚沼市の市街地におけるツキノワグマによる6名もの人身被害の原因究明」が、この「里山のツキノワグマ」シリーズの執筆の主たる動機ですが、シリーズ開始の際に予想していた以上に「全国各地でツキノワグマの出没と人身被害」が多数発生しています。
ツキノワグマによる人身被害を防止するためには、「ツキノワグマと人間との物理的接触を無くすこと」が基本戦略となります。具体的には、
・ツキノワグマが頻繁に出没している場所には不用意に立ち入らない
・身近な場所からクマのエサ資源を排除し、ツキノワグマを人里や市街地に近づけない
・万が一両者が近接しても「物理的距離を確保することで人身被害に移行させない」
・ツキノワグマの個体数を適正水準に調整する
という方策となります。
<ツキノワグマのフンを調べることで、食性や行動が徐々に見えてきます>
<新潟県魚沼地域の旧薪炭林(里山)にはオニグルミやアケビなど、ツキノワグマの様々なエサ資源が存在します>
<フンの内容物に水稲のモミ殻が見えますが、これは「稲刈り後の水田に落ちたクルミ」をクマが採食したためでしょう>
一方で「ツキノワグマの大量出没の原因」を「奥山の荒廃」や「山の木の実の不作」といった面から説明されると、だったら「奥山に美味しい実のなる木を植えればいい」とか「裏山や林道の終点に摘果した柿や栗の実を大量に置いてくればいい」といった意見も見受けられます。ストレートな意見であるが故に、一見「ツキノワグマによる人身被害の防止のための正解であるように思う方」もおられるかも知れませんが、現実には「全ての山には地権者の方が存在します」ので、例えそれが第三者による善意の行為であったとしても、「地権者の了解無し」には「美味しい実のなる果樹の植林」も「ツキノワグマへの人工給餌」も実施できません。
また別の角度から見れば、(裏山などに摘果した柿などを配置する行為によって)「人工給餌により新たなエサ資源を創出させた場合」は、「(クマの出没が相次いていでいる地区であれば尚更)その場所が”ツキノワグマの不健全なエサ場“となる可能性があり」、「人身被害の誘発」や「人工給餌の場所を足掛かりとして、更にツキノワグマを人里へ誘導してしまう場合」もあり得ます。そして「全ての山には地権者が存在していること」を、私たちは忘れてはならないのです。
当方がフィールドワークの舞台としている守門岳の南麓について言えば、「奥山エリア(標高1,000m以上)の面積」は「里山エリア(旧薪炭林)の面積」の25%以下です。つまり、奥山にいくら「美味しい実のなる果樹」を植林しても、その貢献度は25%以上にはなりませんし、冷涼で豪雪環境にある奥山では、そもそも「リンゴや梨などの美味しい果実が毎年沢山実る樹種は野生動物による採食圧が高く、獣害のため満足に育成出来ない」でしょう。また新潟県魚沼地方について言えば「日本海側多雪地域の植生」として、奥山(概ね標高1,000m以上のエリア)は既に「ブナの天然林が卓越しています」ので、「魚沼地方の奥山はツキノワグマの生息場所としては現時点においても理想的な環境にある」と言えます。また旧薪炭林の里山エリアは果樹を植樹するまでもなく、既に様々なエサ資源を有する「ツキノワグマの新天地」となっています。
新潟県魚沼地方におけるクマの出没要因は「マスティング条件下(堅果類の豊凶調整効果)における里山のツキノワグマの存在」がメインテーマです。