昨日(2021.04.24)は休日を利用して、今シーズン初めてとなる鉄馬(IronHorse=鉄馬=バイク)でのツキノワグマ調査を実施しました。昨年秋からの調査では小型四駆を使用し、また積雪期にはテレマークスキーを調査の移動手段としてきましたが、この季節の調査エリアには残雪によって道幅が狭くなった場所や行き止まり箇所が多数あるため、今回は小回りの利くオフロードバイクで広い範囲を一気に巡りました。その結果「場違いな場所で生育しているミズバショウ」、つまり「ツキノワグマがミズバショウを摂食した後にフンとしてタネを排出し」「標準的な自生地から離れた場所に存在するミズバショウ群落」を調査エリアで複数発見しました。こうしたミズバショウの群落は、ひとつの可能性として「ツキノワグマの摂食行動圏を示している」のかも知れません。
<左上:残雪を抱く(いだく)奥山の守門岳 右上:調査の足はテレマークスキーからバイクへ>
<左下:耕作放棄水田に咲くミズバショウ 右下:こうした群落はクマのフンに由来するのか?>
祖父の証言によれば、戦前の魚沼地方では馬を河川で洗い、涼しくなった夕方に愛馬との散歩(乗馬)を楽しんだそうですが、令和の今では「散歩相手の馬」がバイクに変わったのでしょうか?オフロードバイクの乗車姿勢は視界が広くゆったりと周囲を観察できるため、魚沼地方の狭い道路沿いの調査でも現代の鉄馬(=バイク)の有効性を感じます。
<左:浅草山麓のミズバショウ自生地 右:ツキノワグマが食害したミズバショウ(R02撮影)>
さて、里山のツキノワグマに関する調査ですが、「場違いな場所に咲く全てのミズバショウがそうだ」とは言い切れませんが、ミズバショウが春から夏にかけてツキノワグマの主要な餌資源であることを踏まえて考察すると、こうしたミズバショウのうちの何割かは「ツキノワグマが排出したフンに含まれていたタネに由来する」と解釈することも可能です。ミズバショウは本来、冷たい水が流れる穏やかな渓流沿いや湿原に自生する植物であり「タネが水流に乗って下流方向に拡散すること」で殖えてゆきます。このような繁殖形態をとるミズバショウですが、ツキノワグマがミズバショウをタネごと摂食した後にフンと一緒に排出することから、「ツキノワグマはミズバショウのタネを自生地から遠く離れた場所まで拡散させる運搬者となります」。
つまり、この関係をツキノワグマの生態調査の視点で言い換えれば「場違いなミズバショウの自生地はツキノワグマの摂食行動圏を示す場合があり」「ツキノワグマによるミズバショウへの食害行為(食痕)」と合わせて観察・検証することで、「里山に生息するツキノワグマ」の数年分の行動を解析できる可能性が見えてきます。
今の季節は雪消え直後であり、残雪のため里山の藪もまだ発達せず「クマのフンに由来するミズバショウ自生地の調査」も容易です。従ってここを糸口に研究を進めれば、春以降のミズバショウへの食害箇所(リアルタイム行動圏)を基点として周囲のミズバショウ群落を評価・マッピングし、これに加えて既知のツキノワグマの爪痕やフンの発見場所及び内容物等のレイヤー情報を重ねることで「豪雪地帯である新潟県魚沼地方におけるツキノワグマの里山の利用履歴と摂食行動圏」を簡便な手法を以って時系列で読み取れるかも知れません。
<左:先日発見したトラツグミのロードキル 右:ロードキル個体は様々な事を教えてくれます>
そして、先日見つけたトラツグミのロードキル(交通事故)個体ですが、デジカメの写真で確認すると「トラツグミの美しさ」をあらためて実感します。トラツグミといえば「伝説の妖怪であるヌエの鳴き声の正体」として有名ですが、中々狙って観察できる野鳥ではありません。野生動物のロードキルの原因の一端は明らかに人間側にありますので、野生動物に対しても交通安全を心掛けたいものです。