今日(2021.03.13)は低気圧の接近に伴って天候が目まぐるしく変化し、気温が12.1度(11:00)まで上昇しました。このため動物の行動にも変化が期待できますので、本降りの雨天になる前に休日を利用して定点観察地点(エコミュージアム園内ではありません)の雪上調査を実施しました。その結果、ツキノワグマの沢山の爪痕や湿原で摂食行動中のニホンイノシシを発見しました。
<左上:出発地点の上空にはノスリ? 右上:雪上調査にはテレマークスキーを使います>
<左下:雪崩斜面の上部にはユキツバキやミツバアケビも露出 右下:イノシシの餌資源となるフジ>
<ホオノキに残されたツキノワグマの爪痕各種。左下の写真には昨年の新しい爪痕もあります。>
いつもの場所に陣取るイノシシのネヤ(寝屋)を避ける関係で、違う調査ルートを用いるとこれが大正解、周囲が良く見渡せる小高い丘の上にあるホオノキに沢山のツキノワグマの爪痕を発見しました。これらの爪痕は雪面から3m程上部、つまり無雪期の地面からは5m程の高さまで明瞭ですが、詳しく観察するともっと高い位置にある太い枝のところまでツキノワグマが登った様子が伺えます。
横一列に3つ並んだ爪跡は「木登りの際に」、また細長くカーブを描いた爪痕は「木から降りる際に」つけられたものと解釈しますが、それにしても目立つ位置にある立派なホオノキを選んでツキノワグマは木登りしているようにも思えます。そのことの意味(摂食行動?マーキング?木登りの練習?周囲の見張り?)を色々思案してみますが、これらの爪痕はまるで「ツキノワグマが自分の文字(クマ文字?)で記した手紙」のようにも見えてきます。
この調査区のすぐ横には観光施設や水田、テレビ放送の中継施設などがありますが、これらの爪痕が証明する通り、「一般の方が想像するよりもずっと近く」で「複数のツキノワグマが普段から行動しています(里山のツキノワグマの存在)」。この里山エリア(旧薪炭林)で行動しているツキノワグマのメッセージは何なのでしょうか?今後の調査活動で「爪痕で記されたクマからの手紙」を解読したいと思います。
そして、この調査区では「ツキノワグマの足跡」は今期はまだ発見されていませんが、暖かい日が続いていますのでツキノワグマの本格的な冬眠明けも間近(里山エリアでは4月上旬頃か)です。
<左上:湿原にあるのはミズバショウ? 右上:水際の土手がイノシシの餌場に>
<左下:湿原の摂食場所から森へ移動するイノシシ2頭を発見 右下:イノシシの部分を拡大した写真>
そして今回は昼間に行動するニホンイノシシを観察することが出来ました。イノシシに不意に接近するとイノシシから攻撃される危険性がありますので、「高い場所で距離を確保し」「イノシシを見下ろす安全な位置から観察する」のが基本です。
テレマークスキーでイノシシの死角からゆっくり近づくと、湿原の水際で「バシャバシャ」というイノシシの足音が聞こえます。足音からするとイノシシは複数頭居る様子。水を蹴立てる足音の方向を良くみると、当方の気配を察したニホンイノシシが「湿原の餌場から杉林のある山手へと続く雪面の通り道」を移動(退避)しようとしています。今回観察されたイノシシは2頭ですが、周囲よりも雪解けの早い湿原でミズバショウの地下茎や土手にあるススキの根、水際のヨシの根塊などを摂食していたようです。
雪上に残された足跡から判断すると、このイノシシたちは半径1km程を積雪期の行動圏としているようですが、昼間にも行動する必要があるほど摂取カロリーが逼迫しているのでしょうか?それでもイノシシの通り道(獣道)にはイノシシのフンが散見されますので、積雪期であっても「それなりの量の餌」は摂食しているようです。
前回のブログでも御紹介しましたが、50年以上伐採されない旧薪炭林や耕作放棄地には大量のバイオマス(生物由来資源)が蓄積しており、こうしたバイオマス(植物の根塊や種子等に加えて、地表面や土壌中に生息する小動物なども含む)を餌資源とするニホンイノシシが繁殖を続けて個体数を増加させるのは、「物質循環と食物連鎖の視点」から見ても当然の帰結とも言えます。またこの機序(しくみ)は「里山のツキノワグマ」についても適用されるように思います。
イノシシの個体数が増加すると、これに比例して農業被害などの獣害が拡大する可能性が高まりますので、ニホンイノシシの個体数管理が重要になります。
図らずも「里山のツキノワグマの調査」では脇役であった筈の「ニホンイノシシの激増」が示唆していますが、今までの観察結果を総括すると、「里山のツキノワグマ」について現状を正確に分析・説明するためには、「バイオマス(生物由来資源)」と「餌資源」が重要なキーワードになると確信しています。
また「バイオマス(生物由来資源)が大量に蓄積した状態の森林(特に、伐採されない旧薪炭林)」について、一般的には「森が荒れている(間伐・伐採・刈り払い・搬出されずに薪炭林に樹木や草本が繁茂している状態)と表現されること」が、「ツキノワグマと森林との関係への誤解(人間が森を荒廃させたからクマが云々)の原因になっている」のではと思案します。
そして毎回実施するフィールド(野外)調査で実感することは、新潟県魚沼地方では「奥山にも里山にも、様々な野生動物が生息している」という事実です。「人間による開発のために奥山が荒廃した」「奥山の森林には生き物の気配は一切無し」「人間のせいでエサ不足となっているのだから、人間は野生動物へエサを与えるべき」といったネット上の一部の見解は、当地についてはどうも該当しないように思います。