今日(2021.01.03)で正月三が日は終わりますが、2週間後には小正月行事が予定されています。新潟県魚沼地方では1月14日の夜に「鳥追い」と呼ばれる「子ども達による集落内の各戸訪問行事(軒付け)」が行われています。
「鳥追いの歌(魚沼弁※)」
鳥追いだ 鳥追いだ
だいろうどんの鳥追いだ
何処から何処まで追ってった
信濃の国まで追ってった
何を持って追ってった
柴(しば)を振り振り追ってった
じーばん鳥も しーばん鳥も
立ち上がりゃ ほーいほい
いっちな いっちな にいくい鳥は
ドウとサンギと小スズメ
小スズメのちくしょうが
稲三把(さんば)盗んで
甘酒辛酒作って
ドウに六杯飲まして
サンギに三杯飲まして
そうだ そうだ そん時だ
ドウも サンギも 小スズメも
佐渡島(さどがしま)へ ほーいほい
※鳥追いの歌は集落毎に、また年代毎に変容が大きく、統一的な歌詞の採録は困難です。
新潟県魚沼地方においては「鳥追い」の夜は、子ども達だけでも夜更かしが許されていたため、一年の行事の中でも一番楽しみにしている日でした。かつては「ほんやら洞」と呼ばれるカマクラ(雪で作った1晩だけの雪室)に集い、子ども達が各時持ち寄った「餅」や「お菓子」を食べて楽しみましたが、カマクラの崩落などが時々発生したこともあり、昭和50年代以降は安全確保のために徐々に「室内での集会・飲食」となりつつあるようです。鳥追い歌の班(宿)は、男女別の場合と、男女混合の場合とがありますが、基本的には上記の「鳥追いの歌(集落毎に差異があります)」を歌いながら「雪明りに照らされた集落内の家々」を巡回します。そしてその翌日には集落の大人が取り仕切る「歳の神」が行われます。
鳥追いの歌詞にある通り、この行事のテーマは「田植え後の水田において、ドジョウやカエルを食べるために苗を踏み荒らすドウ(朱鷺・トキ)とサンギ(アオサギやチュウサギか?)」、そして「稲刈り間近の稲穂を食害するスズメを追い払う」「鳥獣被害防止策」ですが、この追い払い役を小正月のタイミングで子ども達に委ねているところに、鳥追い行事が成立した文化的背景が伺えます。
小正月の頃は一年で最も気温が下がり、積雪量も多くなる大寒を控えていますが、その寒さの中にあって「今年一年の豊作を祈る気持ち」と「水稲栽培の重要な要素である水を司る水神様への畏敬の念」、そして「雪の夜の暗闇の中でも、子ども達が見せる無邪気な笑顔と歌声」に、「春に向けた生命の再生」を見出していたように思います。
また子ども達への教育的側面から見ても、集落の行事を担当することで協調性や責任感が養われ、集落を担う成人へと成長する準備行事でもあったようです。また「宿役(鳥追い行事の亭主役)」となる家にしても、集落内の子ども達のそれぞれの人柄や特性を知ることが出来る貴重な行事でした。
さて、鳥追いの歌詞の意味ですが、大意としては、
「この集落内からトキ(朱鷺)、サギ(鷺)、小スズメ(雀)を追い出すぞ」
という事ですが、その追い出す先が信濃の国(長野県)や佐渡島(新潟県)であるところに、当時の人々の地理感覚が見て取れます。新潟県では「小正月の鳥追い」の他に、7月中旬に行う「稲虫送り」などが農耕に纏わる伝統行事としてありますが、稲作の障害となる野生鳥獣の追い払い(※)や病害虫の発生予防は、昔から(恐らく江戸時代以前から)集落の重要な課題であったことが伺えます。