今朝(2020.11.02)も里山エリア(エコミュージアム園内ではありません)の定点観察を実施しました。夜明けの時刻も随分遅くなり、出勤前の時間で全てのチェックポイントを巡回することも難しくなりつつありますが、クマの冬眠までの残り約40日間でどこまで「里山のツキノワグマ」の生態に近づけるか、チャレンジの日々です。
<新潟県魚沼地方では、旧薪炭林とブナ自然林とが連続しています>
<紅葉の様子から、樹種の構成が可視化されます>
この秋は各地からツキノワグマの市街地への出没と人身被害が報告されています。その背景には「堅果類の豊凶サイクル(マスティング)」と「ツキノワグマの行動圏の拡大」があり、またツキノワグマの個体数自体も増加傾向にあることが見てとれます。
堅果類(いわゆるドングリ)の豊凶は、植物自身が種子の散布方法を工夫し、効率化する中で効果を発揮します。つまり、毎年同じ量のドングリを散布すると「毎年毎年、野ネズミにドングリを食べられてしまい」「種子の散布が毎年不成功に終わりますし」「野ネズミの数もどんどん増えてしまいます」。そこで、「凶作年の設定で野ネズミの数は増やさず」「豊作年の設定により”食べきれない種子を”野ネズミに種子を様々な場所へ運んでもらう」ためにとった方法が、「堅果類の豊凶サイクル(マスティング)」であると考えられます。
こうした堅果類の豊凶サイクル(マスティング)は、「植物と動物との相互作用・共生関係そのもの」ですし、日本列島では人間による文明社会が始まる前から営まれてきた自然の仕組みです。ツキノワグマも当然この「堅果類の豊凶サイクルに対応した生存戦略」を持っている訳で、「群れを形成せず、単独行動をとることで種全体の共倒れを防いだり」「食肉目に分類されるが、食性に幅を持たせた雑食性」、「着床遅延による個体数調整」、そして「エサ資源を求めて行動圏を拡大する移動・学習能力」等があげられます。
人間社会から見れば「ツキノワグマの大量出没」ですが、ツキノワグマの生存戦略として「(行動圏を拡大するという)基本に忠実に行動している」とも解釈できます。「エサ不足でクマが可哀想」とか「山を荒らした人間が悪い」といった言説も一部にはあるようですが、この機会に堅果類の豊凶とツキノワグマの生態など、自然の仕組み(生態学、動物行動学など)を基本から学ぶことが環境学習として大切だと思います。
<新潟県魚沼地方の旧薪炭林は最後の伐採から50年以上経過し、現在ではツキノワグマの新たなエサ場となっています。堅果類が不作でも、こうした森にはオニグルミやアケビが実ります>
<巡回コースにあるインジケーター(指標・目印)の柿の木ですが、今日もクマの食害無しです>