さて、昨日(2020.10.21)浅草山国有林内にある「浅草山麓遊々の森・のうさぎコース(標高約800mの地点)」で発見されたツキノワグマのフンですが、本日コース再開に向けた管理作業の中でこのフンを調査したところ、「フンの内容物としてオニグルミの外殻」が多く含まれていることに気がつきました(そして、コースの安全は本日しっかり確認しました)。しかし、オニグルミはこの観察コース周辺には生育していません。またこの観察コースの歩道上でツキノワグマのフンが発見されたのも今回初めてとなります。
以上のことから、このフンが示すストーリーとして、「ツキノワグマの移動経路とその距離」がおぼろげながら見えて来たように思います。当方が把握している場所で、フンの発見現場から最も近いオニグルミの生育地は「県道385号線の山の神トンネル西側出口付近(標高450m)」です。当地ではオニグルミはあまり標高の高い場所には生育しませんし(概ね500m以下)、オニグルミは日当たりが良く湿り気味の土壌を好む樹木です。
仮に、このフンを排出したツキノワグマが上記の場所付近から24時間以内(フンの排出サイクルから推察)で移動して来たとすると、その直線距離は5.248mとなります。しかも、10月下旬の固いオニグルミの実をバリバリと嚙み砕くクマですから、壮年期の強いクマの存在が想像されます。また、当施設付近に居着かず「風のように過ぎていったスマートさ」から、「人間の存在と怖さを理解して、ドジを踏まない経験豊富なベテランのクマ」がイメージされます。
またこのルートが仮に正解だとすると、当地の「里山のクマ」の中には、「普段は奥山のクマ」が何割か含まれているのかも知れません。
<国土地理院の地理院地図インターネット版より>
<ひとつの可能性として、今回のクマの移動距離は5.248kmになります>
狩猟対象となる「残雪期のクマの移動距離とそのスピードの凄さ」については、当地の猟師さんが具体的に把握していますが、季節変化に伴うエサ資源の構成変化と個々のツキノワグマが移動する際のルートや行動圏について、当地(守門.浅草エリア)では知見の蓄積は十分ではありません。特に「里山エリアで冬眠するクマ」が存在しているのか否かが注目されます。
「奥山のツキノワグマ」と「里山のツキノワグマ」がそれぞれどのように振舞っているのか、今後の調査で新たな知見が得られる事と思います。