昨日(2020.10.04)も里山エリア(エコミュージアム園内ではありません)の定点観察を実施しました。所用により夕方から日没の時刻にかけての観察となりましたので、普段とは異なる里山の様子が観察されました。特に今回は単独のニホンザルによる野生のクリ(柴栗)への採食行動が確認されました。またこの里山エリアでは柴栗に加えて畦畔(田んぼの畦)に植栽されている柿の木にも、ツキノワグマの樹上採食行動に伴う「枝折り」とその結果生じる「熊棚(くまだな、広義の食痕とも言えます)」が多数観察できます。
「森林を垂直方向に立体的に利用しているツキノワグマ」は「生態系においてニッチ(位置付け)が一部重なるニホンザル」と「里山エリアでエサ資源をめぐって競合しています」。昨日のニホンザルによる樹上での柴栗の採食行動とツキノワグマが形成した柴栗の熊棚を見ると、その競合の様子が具体的に分かります。
「人間がツキノワグマの住処(すみか)を奪った」とか、「人間が奥山を開発行為でめちゃくちゃにしたからクマが人里に降りてくる」という言説を時々見かけますが、昭和30年代の燃料転換以降、伐採されなくなった里山(旧薪炭林の森林)が成長を続け「良質なエサ場」になればなるほど、新潟県内におけるツキノワグマとニホンザルの分布域が里山エリアを中心に重複し、「種間の競合」が結果として「ツキノワグマが人里に出没する要因とも成り得ます」。
<野生のクリの実(柴栗)を採食する単独のニホンザル。右側はその拡大写真です。>
<栗の木と柿の木に形成された熊棚(くまだな)>
<畦畔に植栽された柿の木にはツキノワグマによる以前の爪跡が残されています。里山エリアではツキノワグマの利用圧により枯死する柿の木もあります。>
「山の木の実が不作」とか「ツキノワグマが人里に出没している」というニュースが流れると、一部では「奥山に実のなる木を植えたらいいんじゃないか」とか「林道の終点にクマのエサを置いておけばいい」などの素直な意見が出てきます。温帯の樹種である柿の木について言えば、その起源は中国大陸にあり日本列島には奈良時代前後に人為的に移入されたとされています。栽培しやすく加工しやすい柿の実を得るために、農村地帯を中心に人家の周りに数多く柿の木が植栽されていますが、新潟県魚沼地方における柿の木の分布状況を見ると、その中心は主に集落周辺であり、里山にある柿の木は「畦畔に植栽されたもの」か、「野生動物による柿の実の採食とそのフンに含まれた種子の移動拡散による半野生化」に由来すると思われます。逆に新潟県魚沼地方において、「周囲に集落の無い奥山エリアや標高800m以上のブナ天然林エリア」では「柿の木の自然分布は(ほぼ)確認できません」。
そして現在調査中の里山エリアでは「ツキノワグマによる柿の実の採食圧」が非常に高く、利用頻度の高い柿の木はツキノワグマによる食害と損傷により枯死するものもあります。故に「ツキノワグマのために奥山(冷涼なブナ天然林エリア)に柿の木を植えた」としても、全国有数の豪雪地帯である新潟県魚沼地方については「冷涼で根雪期間も長く野生動物による採食圧の高い奥山エリアでは損耗が大きく、柿の木はほとんど残らない」と思われます。