里山のツキノワグマ 8 〜一本のクリの木が語るクマの行動〜

 当方の早朝のウォーキングコースにツキノワグマが出没してからもうすぐ1ケ月になろうとしています。ツキノワグマの観察自体は学生時代から続けていますが、ここ新潟県魚沼地方が「県境に近い中山間地地域」であるとは言え、人家のすぐ近くで「頻繁に」ツキノワグマが出没するようになったのは、当地ではここ10年ほど前からのように思います。当初は「山の木の実が不作だからクマが人里に降りて来た」とか「今年は台風で木の実が地面に落ちたからクマが人里に降りてきた」などと説明されてきましたが、令和2年度の現在では「春から晩秋まで」人里近くでツキノワグマの目撃情報が数多く寄せられています

 そして昨年の10月には魚沼市の中心市街地にツキノワグマが出没し複数の方が襲われ、より深刻な状況となっています。子どもたちの通学路や、地域の方が集う温泉施設の敷地内、あるいは多くの方が利用する散歩道にツキノワグマが出没すると、「地域で平和な日常が送れない状態」となります。

 

 さて、昨日(2020.09.06)の午前11時ころ「1頭の子グマ」が、この定点観察地点の里山(旧薪炭林)の林縁部で目撃されました。時間帯は真昼間ですから、子グマの警戒心の無さが想像できますが、「親離れしたばかりの子グマが目撃されることの背景」には多くの事実が存在します。具体的には、

・オスの成獣とメスの成獣の2頭が生息していること(交尾)。

・メスグマのエサ環境が恵まれていること(遅延着床の生理条件)。

・メスグマが冬篭り出来る「冬眠場所」が存在していること(出産)。

・メスグマが子グマを出産してから約1年半の間、エサ資源が十分に存在していること(子育ての成功)。

等が挙げられます。

 

 この定点観察地点の里山(旧薪炭林)は田んぼや河畔林も含んでいるのですが、山頂付近の水田地帯にある1本のクリの木は「10年ほど前から」頻繁にツキノワグマが採食に訪れるようになり、ここ数年はクマの枝折り(熊棚)と爪痕によるダメージが進行し、枯死が心配されるほどとなっています。これは、「ツキノワグマの利用頻度」が年々高まっていることを示していますそして、前述のようにこの定点観察地点の里山では「子グマが複数回目撃されています」。

<毎年クマが採食のために登る”野中の一本栗”ですが、何とか枯れずに頑張っています>

 

 この二つの観察結果を総合して評価すると、「この里山はツキノワグマのエサ資源に恵まれており」、また子グマが複数回目撃されている事から「ツキノワグマの個体数も増加傾向にある可能性が高い」と思われます