今日(R02.08.05)の新潟県魚沼地方は気持ちの良い朝を迎えています。守門アメダス観測点における最低気温は20.8度、日中の最高気温は34度と予想されています。フィールドでの自然観察は、日陰のある場所を中心にできるだけ涼しくお過ごし下さい。
さて、先日の写真撮影と巡視の際に園内の植物の結実状況をチェックしましたが、当地の2020シーズンについては「ヤマブドウとサルナシは豊作」のようです。特にヤマブドウは久しぶりに多くの房を確認出来ました。次のコメントには、「各ワイナリーでは素晴らしいワインができるでしょう」と続けたくなりますが、梅雨明け後の夏の日差しを受けて野外で過ごすと、帰宅後には新鮮なシーフードと冷やした白ワインが恋しくなりますね。
それはそうと、山の実りの状況に関連してツキノワグマの出没状況は今後どのように推移するでしょうか。新潟県魚沼地方では「若いクマ」や「子クマ」の目撃情報が複数寄せられています。「若クマと子クマが目撃される」と言うことは「数年前のツキノワグマの繁殖が順調であったこと」と、その前提として「ペアリングの前後にエサ資源が十分存在したこと」が推察されます。
当地のツキノワグマはヤマブドウやサルナシに加えて、ミズバショウやアケビの実も採食します。ツキノワグマは食べ物を求めて山野を広範囲に移動する野生動物ですが、奥山にはブナ林が広がり、植生豊かな旧薪炭林の里山を有する当地のツキノワグマは、「季節の推移や木の実の結実状況に応じて食性を柔軟に対応させている」と考えられます。これから秋にかけてミズナラやコナラのドングリもたくさん実りますが、園内のドングリについては「平年並みになりそうな印象」です。一般に良く言われる「山にはツキノワグマのエサが無いという状況」は、当地(新潟県魚沼地方)についてはちょっと違うように思います(ブナの実の豊作年は3〜8年ほどのサイクルで、通常年は実りが少ないのが平常)。
フィールドでの観察と各種の調査結果から見ると、新潟県魚沼地域においては「旧薪炭林の成長と豊富なエサ資源を背景としてツキノワグマの個体数は増加傾向にあり」、これを受けた「ツキノワグマの行動圏の拡大(奥山から里山までの広い範囲が該当、各ナワバリの間隔が過密になれば自ずと「行動圏が人間サイドと交差する個体」が出てくる)がツキノワグマの出没状況を変化させているように考えます。
<2020.08.05 10:00 追記>
昨日にかけて、中部地方や北関東などでツキノワグマによる人身事故が報告されています。今の時期の親子グマは春に生まれた子熊(0歳)、または生後一年たった子熊(1歳)を連れた親子グマの2パターンが考えられますが、親子グマは子連れのため行動圏が狭く、またオスグマのナワバリを避ける傾向(オスグマが母クマと交尾する目的で子グマを殺す場合があるため)から、結果として親子グマは人間サイドと行動圏が交差しやすい傾向があり、またその過程で子グマを人間から守ろうとして人身事故に発展する場合があります。
また、初夏の頃に親離れ(所謂”イチゴ落とし”)したばかりの若クマ(2歳〜)は人間への恐怖心が弱く、むしろ若さ故の無邪気さと好奇心から人間サイドに近づき、また強いオスグマのナワバリを避ける過程で同様な事故に発展することが考えられます。
「成熟した極相林に近い森林(自然林)の中心部」は高木が占拠すると植生が単調化し、むしろツキノワグマのエサ資源が限定される傾向があります。その一方で森林内のギャップ(倒木などによって生じた間隙、光環境に優れる)や林縁部、河畔林、林道やハイキングコースの両側などはふんだんに日光が降り注ぐため、ヤマブドウやサルナシ、アケビなどがたくさん実ります。こうした場所はツキノワグマのエサ資源となる植物や小動物も多く、また人間の活動サイドに近いため、人身事故に至る背景ともなり得ます。
「奥山が荒廃し、奥山にエサが無いからクマが人里に出てくる」という表現は一面的な理解であり、それぞれの地域におけるフィールドの状況とツキノワグマの行動はもっともっと複雑で複合的です。
(写真は2020.08.03に撮影した園内のヤマブドウの若い実です)