梅雨の後半を迎え、浅草山麓エコ・ミュージアムの園内ではアンニンゴ(新潟県魚沼地域での地方名、ウワミズザクラの実のこと)がたくさん実っています。独自の地方名があるという事は、それだけ「ウワミズザクラの実」が「昔から身近で利用可能な食材であった」ということを示していますが、当地では(主にツボミ状態の房を)塩漬けにして食し、独特の爽やかな香りから「魚沼の山の幸」としても知られています。ツキノワグマもこのウワミズザクラの実を結構採食するのですが、ウワミズザクラの実はスーパーで売られている果物のように甘くもなく、大きくもありません。そして都市部の方がツキノワグマのニュースに触れる際に、「山の木の実」という言葉からイメージするのが、「ウワミズザクラの実であること」はほとんど無いように思います。
ツキノワグマは食べ物を探して山や谷の広い範囲を移動しています。そして山の中には「小さくて酸っぱいアンニンゴ(ウワミズザクラの実)」はたくさんあっても、スーパーにあるような甘くて大きなリンゴやナシやモモの実は(山の中には)自生していません。リンゴやナシ、モモが「森に隣接する果樹園」に美味しそうに実っていれば、ツキノワグマは当然こうした作物に興味を持ちます。さらにツキノワグマが登ったカキの木やクリの木の枝は、採食のために遠慮なくクマに折られますので、クマの利用頻度が高い果樹は数年で枯れてしまう場合もあります。
「野生のツキノワグマの臭い」はどのようなものでしょうか。絵本に出てくるクマは可愛らしく描かれているため、「クマの臭い」は「甘いハチミツの香り」「ペット用シャンプーの優しい香り」をイメージする方もいるかも知れませんが、実際のツキノワグマの臭いは「タンパク質が変質し、糞尿臭とアンモニア臭とを纏った、まさに獣(けもの)の臭い」です。ツキノワグマが寝そべった場所は独特の獣臭とともに地面の草が丸く倒されます。その様子が示すのは「絵本の中の可愛いクマ」ではなく、「圧倒的な存在感」を放つ「現代に生きる大型野生動物としてのリアルで大胆なツキノワグマ」の姿です。
広大な天然ブナ林(奥山)と成長を続ける旧薪炭林(里山)とが連続している新潟の森林では、いつツキノワグマと遭遇しても不思議ではありません。