カゲロウの亜成虫 〜そして君は綺麗になった〜

 今日(R02.07.03)の新潟県魚沼地方は雨上がりの朝を迎えています。守門アメダス観測点における最低気温は17.9度、日中の最高気温は24度と予想されています。朝晩は肌寒さを感じます。

 さて、空気の入れ替えをしようと窓ガラスを開けると、網戸の外側に「カゲロウの抜け殻」がくっついています。白いその姿には「まるで魂が抜けたような」という表現を使いたくなりますが、実際に殻から抜けたのは「魂ではなくて成虫になったカゲロウ」です。つまりこの抜け殻は「カゲロウの亜成虫から成虫への最終脱皮」の証拠物です。

 カゲロウは「亜成虫」というちょっと変わった段階を経て成虫になります。全てのカゲロウ目の種(しゅ)が亜成虫の段階を経るのか、ちょっと自信がありませんが、フィールドでの観察では、河川に生息するモンカゲロウやヒラタカゲロウの仲間の「羽化したばかりの亜成虫の個体」を川岸の葉陰などで稀に見掛けます。そもそも何でわざわざ「亜成虫」になってから、もう一回脱皮をして「成虫」になるのか、すごく不思議ですよね。

 カゲロウは幼虫時代を水中で過ごしますが、「幼虫が短時間に水面付近で羽化するために、羽を得た亜成虫という段階が必要」なのだと一般的には理解されます。その後、亜成虫は陸上の木陰などで成虫へと最終脱皮し、集団群舞と交尾・産卵行動へと移行します。例えて言えば、水中生活では地味なウエットスーツだったけど、結婚式のパーティーにはみんなで綺麗な目立つドレスを着なくてはいけないので、その準備で1日だけ着替えやすいカジュアルなワンピース姿になっています・・・というイメージでしょうか。「ワンピース=亜成虫??」。独身時代の清楚なワンピース姿の彼女(カゲロウ)も素敵ですけどね。

 さて、亜成虫から最後の脱皮で成虫に変わったカゲロウは、夕暮れ時に水面上空を集団で飛び交い(この行動が一番明確に観察出来ます)交尾した後で、最後の大仕事として水面まで移動して産卵します。亜成虫になってから成虫として産卵するまでの各段階で、カゲロウは他の生き物(鳥や魚)の格好の餌食になってしまうのですが、これを種として解決するために「集団で交尾・産卵」することで、この捕食圧を克服して命を繋いでゆきます(犠牲が生じても、誰かが生き残るという作戦)。

 儚(はかな)さの代名詞とも言えるカゲロウですが、水辺の生態系では河川と陸上との物質循環(命の繋がり)で大きな役割を果たしています。今後とも、カゲロウを含めた身近な河川の観察を続けてゆきたいと思います。

 

<追記>

 水生昆虫の羽化のパターンは様々です。水中で蛹(さなぎ)になり、蛹から羽化するトビケラや、水中から幼虫(ヤゴ)のまま陸上に移動し、陸上で幼虫(ヤゴ)から羽化するトンボなど種によって大きく異なります。それぞれの羽化のパターン毎にメリットとデメリットはあるのでしょうが、それでも現在に至るまでそれぞれの種が地球上で命を繋いでいるのですから、生物の進化と分化は本当に興味深いと思います。カゲロウ目が持つ亜成虫という不思議なスタイルも、生物進化のひとつの答えなのでしょう。