〜The summer’s gone, and all the roses falling〜 夏が終わり、薔薇の花が散る

 「読書の秋」や「芸術の秋」とも言われますが、紅葉から落ち葉の季節を迎えると、「四季の移ろい」と「個々の心情」とが交差する中で様々な名曲が生まれるように思います。「Danny Boy」はアイルランドの伝承音楽をルーツとし、この旋律に対してイギリス人のフレデリック・ウェザリーが作詞(1913年)したとのことです(※)。

 

 「Danny Boy」 Frederic Edward Weatherly 

 

                   (私訳)

Oh Danny Boy, the pipes, the pipes are calling.

From glen to glen, and down the mountain side.

私のダニーボーイ、あのパイプ(バグパイプ)の音が

谷から谷へ、そして山から野へ(貴方を)呼んでいる。

 

The summer’s gone, and all the roses falling.

‘Tis you, ‘tis you must go and I must bide.

あの夏が過ぎ、薔薇の花が散る。

貴方は行かねばならず、私は留まらねばならない。

 

となっています。「calling」と「falling」、「side」と「bide」がそれぞれ対となって韻を踏み、「夏が過ぎ、薔薇の花が散る」という文から「季節の変化だけでは無い」ある種の「喪失感」が表現されています。「pipes」は「笛」とも「バグパイプ」とも訳されますが、「作詞者が英国出身である事」と語りかける相手が「Danny Boy(男性)」との事から、この場面での「pipes」は戦場での進軍に用いられるバグパイプではないか・・・との解釈もあるようです。「you must go」と「 I must bide」の対になった一文は意味深にとれますが、「(Dannyが去った後)どんな運命であったとしても私は留まらなければ(生き続けなければ)ならない」との意味もあるように思います。

 

But come ye back when summer’s in the meadow.

Or when the valley’s hushed and white with snow.

私の元に帰って来て。夏の草原に。

谷間を静める雪の白さに。

 

‘Tis I’ll be here in sunshine or in shadow.

Oh Danny Boy, oh Danny Boy, I love you so.

私はここに居ます。日差しの中で、影の中で。

私のダニーボーイ、ダニーボーイ、大切な貴方。

 

「夏の草原」と「雪の白さ」、「日差し」と「影」という言葉が表すのは「去っていったダニーボーイを思い続ける、父親の幾年もの長い時間(残りの人生)」でしょうか。「meadow」「snow」「shadow」と3つの韻を重ねることによって、情感豊かな後半部分を構成しています。「私とDannyの最終的な安息の場面」を示す2番の歌詞は省略しますが、最初の〜The summer’s gone, and all the roses falling〜の歌詞がストーリー全体を暗喩しているようで、アイリッシュメロディーの中に「季節の移ろいと親の深い愛情」を感じる名曲となっています。秋の夜長に如何でしょうか。

 

 

※小柳有美さんのHPより歌詞(英文)と成立の背景を参照させていただきました。

https://themuse.exblog.jp/12805881/