〜 からくれなゐに 水くくるとは 〜  落葉樹林帯の恵み

〜 ちはやぶる 神代(かみよ)も聞かず竜田川(たつたがわ) 韓紅(からくれない)に水くくるとは 〜

   小倉百人一首・古今和歌集 在原業平(ありわらの なりひら)

 

 「ちはやぶる」と聞くと、百人一首の和歌というよりも最近では「高校かるた部の青春物語」として映画やアニメ・漫画でも有名ですが、一方で「落語噺(千早振る)」も御存知の方が多いかと思います。和歌の枕詞(まくらことば・一般には直訳しない)である「ちはやぶる(後に続く神代に係る枕詞)」を「江戸時代の御隠居が無理矢理字面で講釈した事から始まる古典落語のオチ(下げ)」については省略するとして、百人一首の「からくれなゐに 水くくるとは」の部分を聞くと、自然観察的な見方の中では「当時の竜田川の上流部には(流れる紅葉で川が染まるほどの)豊かな落葉樹林帯が広がっていたのかなあ・・」と平安時代の自然環境と色彩感覚に思いを巡らせます

 浅草山麓エコミュージアムの周辺は「越後三山只見国定公園」に指定されており、浅草岳と守門岳の間を「破間川(あぶるまがわ)の支流(平石川)」が流れています。そしてこの渓流沿いに「黒姫洞窟遺跡(自然洞窟)」が発見され、継続的な調査の中で「縄文草創期の生活痕跡等(今から1万3千年から1万6千年程前と推計)」が確認されています。また上記の調査の過程では土器やかまど跡に加えて「サケ(鮭)の骨」も発掘されていることから、当地は古くから「川と森の豊かさ」に恵まれて来たことが推察されます

 また黒姫洞窟遺跡よりも更に上流に位置する源流域(守門黒姫の裏側)には、今でも「ブナの巨木群」が残されています。そして秋が深まるとこうした森からブナやミズナラ、イタヤカエデなどの紅葉(落ち葉)が渓流を流れ下り、翌年までの間に川底などで分解・利用される過程で多くの水棲昆虫や渓流魚を育みます

 さて、百人一首の「からくれなゐに 水くくるとは」という和歌は、実際には「業平が室内の屏風絵を前にして詠んだ」との事ですが、紅葉を美しいと感じる感性は平安の昔も今も変わることが無いのかも知れません。そして縄文の歴史を有し、落葉樹林帯に抱かれた破間川水系の渓畔に見られる紅葉はまさに「連綿と続く絵巻物」のようだと思います(立柄岩周辺が有名です)。

 また今年の紅葉の情報ですが、例年の通り「10月の第3週前後」が浅草山麓(標高1,000m前後)の紅葉のピークとなりそうです。秋の好日、皆様で是非浅草山麓へお越し下さい。

 

(写真は2016年の10月末に破間川上流部で撮影しました)